竹は百害あって一利なし?「竹害」と竹の炭素蓄積量、吸収量の国内研究

竹は百害あって一利なし?「竹害」と竹の炭素蓄積量、吸収量の国内研究

かつて筍を採るために日本で栽培されていた孟宗竹(もうそうちく)の竹林は今、プラスチックなど竹の代替品の出現や海外から安価な竹材が輸入されることで利用されなくなり、さらに高齢化や後継者不足によって竹林の管理ができずに放置された結果、周囲の植生に無秩序に侵食する「竹害」となり、多くの地域の課題となっています。

この記事では、日本が抱える放置竹林の課題と竹の二酸化炭素(CO2)吸収量について考える上で参考になる国内の研究「森林総合研究所 第2期中期計画成果集(※1)」と「日本国温室効果ガスインベントリ報告書2020年(※2)」より、該当箇所を紹介します。

 

日本の竹林のCO2蓄積量、吸収量について

放置竹林の増加が社会課題になっていますが、そもそも竹林が、森林と比べてどのくらい炭素の吸収や蓄積をするのかを結論づけるには、まだまだ調査が足りていないように思います。二酸化炭素(CO2)の排出や削減を考えるうえでは、炭素蓄積量の算出が必要になりますが、この炭素蓄積量について、「森林総合研究所 第2期中期計画成果集」では、竹林の炭素の蓄積量と吸収量を算定する手法が開発されています。(以下抜粋)

“森林がもつ炭素吸収・蓄積のはたらきが注目されています。放置竹林の増加が問題になっている竹林も森林の一つですが、炭素吸収・蓄積に関して、竹林にどの程度のはたらきがあるのかよく分かっていません。理由の一つは竹の地下茎や根のデータが乏しく、バイオマスを推定する方法がないことにあります。そこで福島県から鹿児島県まで18府県21地点で竹林の管理や地上部を調査し、竹の地下部器官を掘り取りました(図1)。その結果を利用して全国の竹林のバイオマス炭素蓄積量・吸収量を求める手法を開発しました。 ”

(図1)竹林(左上:放置竹林、右上:管理竹林)と地下部バイオマス調査(左下:根切りチェンソー作業、右下:ブロックに切って土ごと回収する)写真提供:国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所

“竹林の胸高の稈断面積合計と地上部バイオマス、地下部バイオマスとの間にはそれぞれ相関関係がありました(図2左)。地下部の増加には頭打ちの傾向が見られます。全国で系統 的に実施されている森林資源モニタリング調査の結果から、竹林の定義(平成18年度末森林資源現況調査 *)を 参考に、植被率(土地面積に対して植物が被覆している面積の割合)と優占樹種にもとづいて、竹林と見なされる163林分を選んだところ、モウソウチク、マダケ、ハチクの各竹林数の比率は約 6:3:1 で、日本の竹林はこの3種で代表できること、過半の竹林で樹木が混生していることが分かりました。竹林バイオマスの全国平均は 245.8 ± 149.3 Mg ha-1(平均値と標準偏差)で、細かく見ると、バイオマスは放置竹林が管理竹林より大きく、モウソウチク林がマダケ林やハチク林より大きい傾向がありました。竹林のバイオマス炭素蓄積量・吸収量の算定:単位面積当たりの竹林バイオマスに、竹林の面積をかけ合わせ、さらに炭素含有率をかけることで、竹林のバイオマス炭素蓄積量を推定できます。また、竹林面積を繰り返し調べ、 異なる時点の炭素蓄積量の差を求めることで、吸収量を推定できます。森林資源現況調査には都道府県別の竹林の面積が毎年示されるので、それを利用して都道府県ごとに竹林のバイオマス炭素蓄積量や吸収量を推定することができます。 ”

(図2)竹林のバイオマス推定式と係数。竹林の胸高稈断面積合計と地上部(奥田ら 2007)、地下部バイオマスとの関係(左)、地下部/地上部バイオマス比との関係(右)画像提供:国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所

また、「日本国温室効果ガスインベントリ報告書2020年」では、竹幹の毎年の成長量と枯死量は均衡しているとされ、よって大気中のCO2量はプラスでもマイナスでもない横ばい(NA)であることが示されています。(以下抜粋)

転用のない森林の下位区分である竹林の5つの炭素プールは、成林している竹林における竹幹の毎年の成長量と枯死量が均衡していると見なし、全て「NA」として報告している。竹には形成層がないため、発生した最初の年で成長の極限に達するがその後は二次肥大成長せず、一定の密度に達した竹林においては、竹が発生する量と枯死する量が同程度であると言われている。さらに、FAO(2007)は、アジア、アフリカの数カ国における1990年、2000年及び2005年の竹の資源状況を調査しており、2000年、2005年の5年間をみると、各国とも単位面積当たりのストックがほぼ横ばいとなっている。また、無立木地については、無立木地の枯死有機物及び鉱質土壌の炭素ストック量の増加と損失が長期的に均衡しているため(FRA 、2010–Country Report, Japan)、生体バイオマスのみ報告し、枯死有機物及び鉱質土壌については「NA」として報告している。”

 

竹林の炭素の蓄積量と吸収量の算定は、まだ発展途上ではありそうですが、竹は百害あって一利なしであると言えるのかどうかも、この算定方法によって明らかになるかもしれません。しかし竹は成長スピードが早いものの、枯れていく量も均衡しているのだとすると、大気中の二酸化炭素(CO2)量は変わらないという研究もあるのは事実です。脱炭素社会の実現に向けて、竹がどのように有効であるのか、今後も調査を続けたいと思います。

※1 「第2期中期計画成果集 重点課題アアa 森林への温暖化影響予測及び二酸化炭素吸収源の評価・活用技術の開発(森林総合研究所/平成23年)日本の竹林のバイオマス炭素蓄積量、吸収量の算定手法の開発」より
※2 国立環境研究所温室効果ガスインベントリオフィス編 環境省地球環境局総務課低炭素社会推進室監修「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」(2020年)より